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 生きる 

生きる (文春文庫)生きる (文春文庫)
(2005/01)
乙川 優三郎

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「生きる」

☆生きる
恩義ある主君の歿後、家老に殉死することを止めら切腹が許されず、卑怯もの、臆病もの、恩知らずと罵られ、辱めを受けながら、生き続けなければならない武士の苦しみ。娘の夫は殉死、心労が重なり妻は病に倒れ亡くなります。武士に与えられた生きることの厳しさ。これに耐えて、生きぬくことのできない息子は自害。同士である友人は断食して餓死。しかし、よくよく考えてみればどれもこれも自分が選択してきた生ではないか、自身の不甲斐なさに対する悔恨。ひとり残された武士に絶縁していた娘と孫との再会。最後に、ほろり、とします。

☆安穏河原
「こういうことになったが何も悪いことはしていない、おまえも、これからどんなことがあろうとも人間の誇りだけは失うな」
妻の薬代を求めるために娘を身売りさせた武士が娘を送り出したときの言葉である。その娘が気がかりで知りあいの若い男に金を用意して女郎屋へ通わせ様子を伺わせる。武士の娘として育てられた女郎は父の教えを忘れず、人へ施しこそすれ物乞いもせず、清らかに生き、自分の娘にも武士の誇りを教えて死んでいった。武士との約束を果たすため娘を捜していた男が見つけたのは、「おなか、いっぱい」という夜鷹の子どもだった。この言葉に涙が止まりませんでした。

☆早梅記
野心のために心を通わせ苦楽をともにしてきた足軽の娘と別れ、筆頭家老に上り詰めた武士が妻の死を迎え、隠居の身となったときに思い出すのは、若き日に別れた娘のことだった。そして偶然にも再会の折りに見た娘は貧しいが豊かに毅然とした日々を過ごしていたことを知ります。

「生きる」の奉公人のせき。「安隠河原」の双枝。女郎の身ながらも誇りを持って生きる気高さ。「早梅記」のしょうぶ。生まれは貧乏ながらも地に足のついた生き様。娘の主人に対する深い思いやり。娘たちの自身に課した厳しさ、潔さ、一途さ、が魅力的です。


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 趣味は読書。 

趣味は読書。趣味は読書。
(2003/01)
斎藤 美奈子

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「趣味は読書。」

斎藤美奈子さんのベストセラー書に対する小気味よい書評。愉快痛快爽快、笑えました。

一冊目の「大河の一滴」(五木寛之)、実はタイトルからして小説だとばかり思っていました、これを読むまでは。「心にしみるいい話」がいっぱいのエッセイ集だったとは。それだけでもう驚き、初めからガーンとやられた気分です。そして、この本のメッセージは、<そのままでいいがな/みつを><ともかくここに生かされている/みつを>。だから、この本を読むのも面倒な読者は相田みつをの『にんだもの』を買うべしと。

「寄りかからず」(茨木のり子)、この詩を読んだとき覚える違和感を斎藤さんは、
相当にヤな詩だよ。っていうか私たち凡人は、もともとどんな<思想>にも<宗教>にも<学問>にも<寄りかか>ってなどいないのだ。「寄りかか」ろうにも、ハハハ、学んでないんだから。それなのに自らの不勉強を棚に上げて、<できあいの>というマジックで人類の英知を根こそぎ否定し、<もはや>のリフレンで、さもそれが「試行錯誤の末に到達した心境」であるように粉飾し、さらには<長く生き>たのを楯に<なに不都合のことやある>とか開き直ってのがこの詩なわけよ。ったくもう。ありがたすぎるぞ、怠け者には。(中略)女性詩人の頑固じじい賛歌と手厳しい。そして、中高年のみんながこの詩に感化されて、不都合はない、格別支障もないと好奇心も向学心も放棄してしまったらたら、どうなる。そんなことになったら、ボケて結局、家族に寄りかからなければならなくるんじゃないの、と心配するのである。

「光に向かって100の花束」(高森顕徹)みんな目を醒ませ!
花束も、腐っていれば、ただのゴミ
なぜ売れる、これが続けば、書の破滅


という調子で41冊を批判します。

本書のささやかな発見は、圧倒的な勝者に見えるベストセラーも、他業種に比べたら些細な勝利でしかなく、それに一喜一憂したところで世の中べつにかわりゃしない、ということだろう。そんなもんですよ、本なんて。それならせめて、活字を愛する少数派同士、みんな仲良くしないとね(と最後に善良ぶってみる)この「あとがき」にも、最後にニヤッとされられましたね。

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 むこうだんばら亭 

むこうだんばら亭むこうだんばら亭
(2005/03/23)
乙川 優三郎

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「むこうだんばら亭」

孝助と、孝助に身請けされた、たかが切り盛りする居酒屋「いなさ屋」は、銚子の東端「とっぱずれ」といわれるダンバラ波の逆巻く漁港にあります。利根川の水と海がぶつかって生まれるダンバラ波の立つ川口は美しく豊かでありながら、難所で、いつでも人を呑み込む恐ろしい海です。

他に行くあてのない境遇を背負った女たちが一縷の望みをたくし「いなさ屋」にたどりつきます。不遇な状況からはい上がろうと、なんとか自分の力で生を全うしようと挑み、もがきながら、しぶとく、したたかな知恵をつけてゆきます。ぎりぎりのところで生きざるを得ない女たちの姿に哀れさはありません。自分をさらけ出して生きる姿に、潔ささえ覚えます。
8つの連作短編集、中でも「古い風」「果ての海」が印象深いです。

☆行き暮れて
☆散り花
☆希望
☆男波女波
☆旅の陽射し
☆古い風
☆磯笛
☆果ての海



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 霧の橋 

霧の橋霧の橋
(1997/03)
乙川 優三郎

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「霧の橋」

乙川優三郎さんの作品は、気持ちを深く掘り下げ、すくいあげるように丁寧に書き込んでいるところに共感させられます。どんな境遇の男女を描いても清涼感が漂っているところ、ひたむきに生きようとする健気な姿に心が洗われます。「人間っていいなあ」と、思える、気持ちのいい読後感を味わえるところが魅力的です。

主人公の父は、密かに思いを寄せていた女将を助けようとして乱心した友に斬られ命を落とします。父の死によって、兄は自害、一家は離散してしまいます。次男である主人公は10年の放浪の末、父の仇を討ちます。その後は武士を捨て商人の婿となり商売に精を出しますが、刀は捨てても、生まれついた武士の気持ちは簡単には捨てられるものではありません。次第に商人としての才覚を現しますが、大店との間の軋轢に苦しみます。また、武士としての気持ちを捨てきれず、悩みます。そんな夫に妻は不安を持ち、恐いとさえ思い始め、夫婦の溝は深まっていきます。互いに思いを寄せながら率直に語ることのできない夫婦の細やかな機微が切実に迫ります。そんな折、父が命をかけて救った女将が一家を翻弄させた事実を知り、憤りを押さえることができません。


「長い一生のうちには、覚えているよりも忘れてしまったほうがいいことのほうがたくさんあるんじゃないですかね、ただ漠然と生きてきたようなわたしにだって、そりゃあたくさんありましたから…」

父を死に至らせた過去の事実を許したとき、怒りも憎しみも消え、霧の橋の向こうから新しい日の光が射して見えます。妻の姿とともに…


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 えらい人はみな変わってはる 

えらい人はみな変わってはるえらい人はみな変わってはる
(2002/06/18)
谷沢 永一

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「えらい人はみな変わってはる」

おミエーさんは、たれによませる積もりで、著述なんかするのか。
と問われて。予はその態度や言葉使いにむっとしたが、怒気をおさえ、襟をだだし、厳然として、
大方の識者にみせるため
と答えた。すると先生は
馬鹿ものめ!猿に見せる積もりで書け。おれなどはいつも猿に見せる積もりでかいているが世の中はソレで丁度いいのだ。
(「猿を相手に書け!」福沢流説法)

福澤諭吉は、鼻糞をほじくるのが癖だった。門下生はその癖を真似するものさえあった。横睨み、これが一番目立つ癖で、欠点だった。人の肝胆を見破りそうな目つきをして、横目に人を睨む。見慣れない人は変だなあ、と思っているのだが、このいやな癖さえ真似をして得意がっている門弟子がいた。
また、長所か欠点かわからないが、常に思いきったことを言い、大奇言を吐くのが好きで、人間は何でもでしゃばらなきゃ駄目だ、とか、おしゃべりでなきゃ駄目だ、巧言令色が肝心だ、などという。(福澤諭吉の癖)

我が国の経営者で最も多くの著作を残したのは松下幸之助だろう。生前46冊。歿後45冊に達す。すべて口述されたものであるが、古今の典籍の引用がほとんどない。幸之助の一生は経験と直感にもとづく創意工夫の積み重ねであった。それによって学問をしなくても経営の極意を覚えることができた。書物を通じて学ぶ必要のなかった人である。(松下幸之助の見るところ)

およそ高橋克巳は作品を書くこと以外、何も考えられない人だったと妻の高橋たか子が回想している。結婚当初、高橋は無職、たか子が家庭教師のアルバイトをして生活を支えていた。貧乏のどん底だった。彼は妻の働いていきた月謝袋を自分のポケットに入れ「温泉へ行ってくるわ」と出て行く。「後姿を見ながら、私は涙がでた。なんとかわいそうな人だろう。他人の心がわからないのだ」。妻が語る夫の姿は悲愴だ。(作家になるために生まれて…高橋克巳)


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